特集:
2008/04/27 日記<取得時効>
取得時効
取得時効(しゅとくじこう)は、他人の物または財産権を一定期間継続して占有または準占有する者に、その権利を与える制度である。消滅時効とともに時効|時効制度の一つである。例えば、AがBの土地に勝手に家を建てて20年間住み続けた(=占有)とする。この場合、AはBに時効が完成したことを主張して本来は他人(B)のものであった土地の所有権を得る事ができる。
民法における論点
要件
概要
取得時効には大きく分けて二つの種類があり、一部要件が異なる。まず一つは所有権を取得する場合であり、これはに規定されている。同条1項では、20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有することによって所有権を時効により取得できるとしている。これには特則があり、同条2項にその規定がある。すなわち、占有を始めたときに、その物が自己の物であると信じ、かつ、信じたことについて不注意な点がない(条文上は善意・無過失と表現され、短期取得時効の「善意」とは、積極的に所有権があると信じたことをいい、他の民法の第三者保護規定と異なり、単なる不知では足りないとされている。)場合には占有を継続する期間が10年に短縮される。なお、10年の取得時効の場合、かつて条文上ではその対象が「他人の不動産」となっていたが、自分の不動産でも構わず、かつ不動産である必要もないと解されている。現在条文では「他人の物」と改正されている。
また、ここでいう「所有の意思」というのは「これを自分の物にしよう」と考えることではなく、「所有者らしく振る舞うこと」であり、''自主占有''と言われる。これに対して借家人などは家などの目的物を「自分の所有物」として占有しているわけではない。これを''他主占有''という。もう一つが所有権以外の財産権を取得する場合であり、民法163条によって規定されている。すなわち、所有権以外の財産権を自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に20年または10年これを行使することで取得できる。ここでいう「所有権以外の財産権」とは、例えば地上権や賃貸借|賃借権などである。20年と10年という期間の違いは所有権の場合と同様、占有を始めたときにそれが他人の財産権であると知っていれば20年で、そうとは知らず、知らないことについて過失がないならば10年である。これらの要件を満たした上で、時効を援用すれば、取得時効が成立する。
立証
取得時効を主張する者は上記の要件を立証しなければならないが、これは容易ではない。そこで法は要件が満たされていることを推定し(これは,無前提の推定、つまり、''暫定真実''である。)、立証の負担を緩和する規定を置いている。まず1項において、占有者は「所有の意思」に基き、「善意」で、「平穏かつ公然」に占有していると推定される。つまり、取得時効の成立を阻もうとする者が本証しない限り、これらの要件が満たされることになってしまう。つまり、他主占有(これは,最高裁判例によると、他主占有権原又は他主占有事情により判定される。)、悪意、強暴、隠秘が原所有者の主張・立証責任事項となる。さらに、占有が10年または20年の間継続していることを証明したい場合にも、その期間の始めと終わりの時点で占有していたことを証明すればその間占有が継続していると推定される(これは、''法律上の事実推定''である。)という形で立証の負担が緩和されている(第186条2項)。よって取得時効を主張する者は、20年間の取得時効の場合、その始めと終わりの時点において自分が占有していたことを、10年の取得時効の場合にはそれに加えて、自分に所有権があると信じたことについて不注意な点がなかった(無過失であった)ことを主張立証すればよい。これに対して相手方が推定を覆すだけの事実を主張立証しない限り、取得時効が成立することになる。
公共用財産の時効取得
公共用財産(道路や水路など)については、民法で規定する財産法規律が及ばず、原則として時効取得の適用が無いものとされている。しかし、最判昭和51年12月24日によれば、公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産については、黙示的に公用が廃止されたものとして、これについて取得時効の成立を妨げないとしている。
制度の存在理由
時効制度は常にその存在理由が争われるが(詳しくは時効#時効の存在理由|時効の存在理由を参照)、取得時効の場合にも、「永続した事実状態の尊重」であるとか、「立証の困難の救済」といったことが挙げられる。しかし取得時効(ひいては時効制度全体)を一つの存在理由で説明することは困難であり、取得時効の場合には、それが機能する局面に応じて存在理由が違うと考えられている。この問題は不動産の取得時効と登記との関係で解釈上重要な働きをする。
取得時効の機能
取得時効が機能する場面は星野英一(民法学者、東京大学名誉教授)の研究以来、以下の3つに分類される。
上記1と2の場合は、取引の安全(短期取得時効)又は永続した事実状態の尊重(長期取得時効)という観点から取得時効が機能しており、3の場合は、真の権利者保護の機能(長期取得時効)という観点から取得時効が機能しているという。星野説は、この取得時効の現実の機能と,本来のあるべき姿(取得時効の存在理由)とを区別すべきであるとされ,真の権利者保護という点をその存在理由として重視しており、近時の有力な見解でもある(他に石田穣、藤原弘道、草野元己などの学者が星野説の存在理由に賛成している。)。なお,最近では,法政策学ないし「法と経済学」という外的視点から取得時効の存在理由にアプローチし,永続する事実状態の尊重は,社会的余剰最大化という観点(財の効率的利用の観点)から正当化されるのではないかとする見解もみられる(判タ1174号90-107頁参照)。
歴史上の取得時効
取得時効の思想は、鎌倉時代に成立した御成敗式目で既に見られる。年紀法、あるいは知行年紀法といわれるもので、第八条にある。
一、雖帯御下文不令知行、経年序所領事、これは、鎌倉幕府から知行(土地の支配)を認める文書の交付を受けていても、実際に権利を行使しなかった場合の規定である。その土地を20年間実効支配した者に対して、大将家(源頼朝)の先例通り、その支配権を正当性を問わず認めるという内容である。
右当知行之後過廿ヶ年者、任大将家之例、不論理非不能改替、而申知行之由、掠給御下文之輩、雖帯彼状不及叙用
不動産登記
所有権の取得時効と登記に関する判例
:大判大正7年3月2日民録24輯423頁
:最判昭和33年8月28日民集12巻12号1936頁
:最判昭和36年7月20日民集15巻7号1903頁
:最判昭和41年11月22日民集20巻9号1401頁
:最判平成18年1月17日民集60巻1号27頁
申請できる登記
時効による取得は原始取得とされている(及び参照)。しかし、所有権を時効により取得した場合に申請できる登記は所有権移転登記であって、未登記不動産についてのみ所有権保存登記を申請できる(明治44年6月22日民事414号回答)。なお、不動産の持分の時効による取得は可能であり、「時効取得」を原因とする持分全部移転登記の申請もすることができる(登記研究547-145頁)。また、原始取得であるので、目的不動産又は権利に付着している権利については消滅する。この消滅に係る抹消登記は職権によりできる規定が存在しないので、当事者の申請により行う。詳しい手続きについては抹消登記を参照。
登記申請情報(一部)
登記の目的(不動産登記令3条5号)は、不動産の所有権全部を時効によって取得した場合、「所有権移転」と記載する。その他の具体例については所有権移転登記を参照。所有権以外の権利の取得の場合、順位番号を付して例えば「2番賃借権移転」のように記載する。登記原因及びその日付(不動産登記令3条6号)のうち、登記原因は「時効取得」であり、原因日付は時効の起算日である(登記研究574-1頁)。民法144条により、時効の効力は起算日にさかのぼるからである。起算日については争いがあり、学説は、民法140条の期間計算の原則(初日不算入)に従って「権利の占有開始の翌日」としている(消滅時効につき最判昭和57年10月19日民集36巻10号2163頁参照)が、登記実務は「占有開始日」としている(登記研究574-1頁)。初日不算入とすると、初日は不法占有となってしまうからである。原因日付を「年月日不詳」とする登記申請は、当事者の共同申請による場合はできない(登記研究434-146頁)が、確定判決による登記申請であり、当該判決主文又は理由中に時効取得の起算日の日付が明記されていない場合はできる(登記研究244-68頁)。登記申請人(不動産登記令3条1号)は、権利を得る者を登記権利者とし、権利を失う名義人を登記義務者として記載する。なお、法人が申請人となる場合、以下の事項も記載しなければならない。
外部リンク
参考文献
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